小さな会社のナレッジマネジメント 会社のノウハウを属人化させない取り組みとは

組織/仕組みづくり
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ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメント(knowledge management)は、1990年に一橋大学大学院の野中郁次郎教授の「知識創造の経営」という考え方から始まったと言われます。

野中教授は長年、日本企業の経営について研究を行い、企業が保持している情報・知識と、個人が持っているノウハウや経験などの知的資産を共有して、創造的な仕事につなげる知識創造を理論化されました。

1995年に一橋大学 竹内 弘高名誉教授と共に「The knowledge creating company」を出版。

この書籍がナレッジマネジメントの原型です。

ナレッジマネジメントはなぜ始まったのか

ナレッジマネジメントが始まった要因はいくつかあります。

企業の短期的コスト削減のためにおこなったリストラ
(人材とともに知識が企業から流出したこと)

ビジネスを左右する価値が製品の良し悪しだけでなくなったこと
(商品のカスタム化、他社との差別化などが求められるようになった)

ビジネス形態の変化
(コミュニケーションツールの変化、物販からコンサルティングなどの知的サービスの増加、仕事の仕組化、効率化への移行)

このようなビジネスにおいて「知識」は重要な資産といえるのですが、その知識は社員一個人にしか保有されず、企業の資産としては管理されていませんでした。

ビジネスの多様化、同種業態の増加、他社との差別化、顧客ニーズへの対応、生産性の向上、効率・迅速化の訴求など、「知識」を活用することがビジネスの必須となってきました。

だからこそ、仕事で蓄積してきたノウハウを社員一個人に保有させておくのではなく、企業の資源として活用できるよう組織に集約・共有する仕組みにする必要があります。

ナレッジマネジメントの役割

これまでのビジネスは情報が重要だと言われていました。

情報とは、ある事柄についての知らせです。

人はその情報を得ることで、判断を下したり、行動を起します。

この判断をより条件の良いことを選ぶ、より効果的な行動に移すには「知識」が必要です。

「情報」は、正に目に見えて伝えることが出来るもの、ある程度型が決まった行動プロセスのことを示しています。

これからの時代は、ビジネスに正解はなくなりました。

「情報」が得られても、それを活用する「知識」がなければ、ビジネスは上手く回らないです。

これまでにない方法、まだ存在していない新しいビジネスを作るにも、情報+知識が重要です。

目には見えない「ノウハウ・知識」を、個人の感覚と管理に任せるのではなく、会社の資産として活用できるように、可視化しアップデートすることがナレッジマネジメントの役割です。

ナレッジマネジメントの目的

情報は日常に溢れていますが、実は自分を取り巻く生活環境や、生活スタイル、関わる人たちによって得られる情報には偏りがあります。

例えば、会社の社員として働いていた時は、休日の過ごし方、美味しい食事ができるお店、格安で利用できる情報が入手できたと思います。

しかし、企業経営や新規事業の考え方、資金調達の仕方などの情報は得られなかったでしょう。

このような情報は経営者という自分のまわりを取り巻く人たちの変化によって、入手できた情報ではないでしょうか。

同じ情報であっても、自分を取り巻く環境や、取り巻く人によって伝えられる部分は異なり、多様な見方が存在します。

更に情報は「誰から聞いたか」という信頼性も伴います。

情報は、「信頼できるか、できないか」「好きな人の話か、嫌いな人の話か」という、自分の感情によって無意識に切り分けられています。

ナレッジマネジメントは、個人個人によって捉え方が異なる情報や、作業の仕方を企業内の共通資産として集め、全社員で有効的に使えるようにすることが目的です。

ナレッジマネジメントの効果

仕事で身に付けたノウハウを個人のみが所有していると、次のような状況が起こります。

仕事で何かトラブルがあると、その人しか対応が出来ない
(社内品質の差・対応の差などが生じ、クレームの原因になる)

ノウハウを持っている人が社内での発言権を持ち、他の人の意見が通らない
(新しい情報が受け入れにくく、事業の変革が起こりにくい)

ノウハウを持っている人が社内指導をしてくれないと、育成に時間がかかる

ノウハウを感覚でしか認識していないので、言語説明ができない
(他の人が真似しにくく再現性が低い)

その人が辞めてしまうと業務効率が下がり、無駄な行動と時間がかかる

従来のノウハウがわからなくなるので、新たに作業方法を模索することになる
(このようなケースは、業務の見直しができ、結果的に作業効率が向上する場合が多い)

このような状況では、効率的に業務が行われているとは言い難いです。

特にビジネスの変化は激しく、「これまでのノウハウ」は通用しなくなっています。

変わりゆくビジネスの変化に即対応できるようにするには、多様な視点から柔軟に物事を考え、自社のビジネスに活かせる「知識の可視化(見える化)、共有化」が必要です。

ノウハウが共有されていれば、お客様のニーズが変化し、サービスの仕方を変えるような場合や課題改善が生じた場合、全社員で考え、共通認識を持ちながら新たなサービスへ移行することが出来ます。

これにより

情報伝達ミスによるサービス低下の抑止

全社員同時育成が可能になるため育成時間の削減

素早い新サービスへの移行(移行期間の削減)

全社員が関わることによるチーム力の向上

状況に応じた知識のアップデート(品質の向上 ⇒ 同業他社との差別化)

など、さまざまな効果が得られます。

ナレッジマネジメントの運用のポイント

取り扱う知識種類

野中郁次郎教授によると、ナレッジマネジメントで扱う知識は2種類、「形式知」と「暗黙知」に分けられます。

形式知:テキストや図など表された知識

就業規則、業務マニュアル、作業手順書、作業フローなど、多くの企業が取り入れている、業務の共有知識です。誰が見ても理解できるよう表現されており、活用することができます。

表面化している知識なので顕在知識とも言われます。

暗黙知:勘(感覚)、ノウハウ、無意識の動作などテキストや図などで表されていない知識

仕事の段取り、時間感覚、問題解決の発見の発想など、テキストや図などで、はっきりと表されていない知識です。個人が仕事を通して身につけた属人的な手法や感覚が該当します。

表面化されていない知識なので、顕在知識とも言われます。

暗黙知は個人で保有しており、その人にしか活用が出来ません。

また、無意識で行っていることは言葉で説明をしたり、テキストなどの文字として表しにくく、当事者以外は活用ができない知識です。

 暗黙知の可視化をするITツール

ナレッジマネジメントで最も難しいのが、暗黙知を形式知に変換し、共有することです。

アナログな方法としては、それぞれのノウハウを付箋に書き出したり、手順を紙に書き出した後で、Word・Excelなどでデータ化することでしょう。

このような方法では、時間と手間が掛かりすぎます。

また、Word・Excelをパソコンで使用する際、ソフトウェアをインストールして使います。社員が増えたりバージョンの変更があった時に、手作業でインストールや更新をすることもあり、面倒に感じることがあります。

近年、SaaS(Software as a Service)というインターネット経由で、ユーザーにソフトウェアの「機能」が利用できます。

SaaSツールは、サーバー側で稼働させるので、ユーザーはソフトウェアをインストールしなくても、インターネット経由で利用することができます。

今まで以上に手軽に、インターネットで新しい知識の蓄積が出来るようになります。

人によっては、改めて時間を確保されて考えるように言われても、ノウハウが思い出せない方もいます。

共有化したい情報は日常の会話に含まれていることが多いく、会話を知識財産として活用したいこともあります。

そのようなときは、社内SNS(チャットワーク・LINE・Facebookなど)でやり取りした会話を集め、PDFにして保管すると良いです。

ナレッジマネジメントでは、いかに暗黙知を形式知に変化するのか、その方法や仕組みを決め置くことが大切です。

知識資産の種類と活用の仕方

形式知・暗黙知は、ビジネスを行いながら蓄積されると、知識資産になります。

ビジネスに存在する知識資産には、次のようなものがあります。

・恒常的知識資産

日常的に存在している知識です。

例えば人に会ったら挨拶をする、会社に出社したらすることなど、

普段何気なく行っていることにも知識が含まれます。

この知識資源は形式知と暗黙知が混在します。

暗黙知として行っていることを共有化することが、恒常的知識資産の有効活用に繋がります。

・体系的知識資産

業務フローやマニュアルなど、体系化されている知識です。

共有しやすい形式知化されている知識です。

ただ一旦、形式知化したことで終わり、その後は知識のアップデートは行われていないことが多いです。

形式知された知識は、定期的なメンテナンスとアップデートが重要になります。

・経験的知識資産

経験によって得られるノウハウや技能など暗黙知の知識が多いです。

経験は人によって異なります。

自分以外の他者が経験で得たノウハウも経験的知識資産に含まれ、これを形式知化することが有効活用のポイントになります。

・概念的知識資産

経営理念やMission、Visionなど

これは経営者の中にある、会社の存在意義、経営者のあり方、想いなどです。

形式知されていることと、暗黙知になっていることが混在している知識資産です。

いかに、経営理念を形式知化して全社員に浸透させるかが、概念的知識資産の活用価値に繋がります。

野中郁次郎教授によると、知識資産の活用は、①目的による分け方(改善志向か増価志向)と、②手段による分け方(資産集約思考か資産連携思考)によって異なると言われています。

知識資産活用目的

・改善:知識資産を共有活用して業務運動の効率などを高めること

・増価:知識資産からの収益創出、新たな価値の増分になること

 知識資産活用手段

・資産集約:分散している知識資産を組織的に集約することに努力すること

・資産連携:知識資産を共有するため組織内外でのさまざまな知識ワーカーや顧客と
      の関係性やネットワーキングに努力すること

知識は蓄積される状況や状態によって、資産となる知識の内容が異なります。

その蓄積してきた知識資産を目的と手段で君合わせると4つの活用方法があります。

・ベストプラクティス共有型

分散している知識資産を組織的かつ具体的に集約する方法(メール、グループウエア)などで個人の持つ知識を集めること。

・知的資本型

経済的価値に変換できる知識資産が対象。

特許やライセンス、著作権などを社内外で活用し、収益に結び付けること。

IP(知的所有権)そのものは知識ではない。

増価に繋がるための経営戦略が重要。

・専門知ネット型

組織内外の専門的知識や、意思決定権を持つ人々を繋げ、特定の課題解決や意思決定を行う事。

個人レベルの知の総和を越えた活用ができる。

・顧客知共有型

万人受けをする定型的なサービスよりも、個々のお客様の要望に合わせたカスタマイズサービスの方が、高価格帯ではあるがニーズが多い場合があります。

しかし、お客様の個々の要望に合わせるには、自社がこれまで行ってきたノウハウだけではお客様の要望には応えきれないでしょう。

そこで、お客様から詳しい要望を聞き出し、要望を満たすヒントを得てサービス開発を行うこともあるでしょう。

このような状況こそ、お客様の暗黙知を活用し、自社のサービスに活用している状況です。

ナレッジマネジメントは、目的と手段で運用の仕方が変わっていきます。

組織で運営するナレッジマネジメントのプロセス

ナレッジマネジメントの最大の目的は知識の可視化と共有です。

特に個人で保有されているノウハウを、組織で使えるように仕組化する必要があります。知識資産を共有し、全社員が活用できるようにする、運用プロセスがあります。

プロセスの4つの頭文字からSECIモデルとも言われています。 

・Socialization(共同化)

暗黙知から新たに暗黙知を得るプロセス

身体・五感を駆使し、直接体験を通しての暗黙知の共有、創出

社内外の歩き回りによる暗黙知の獲得

暗黙知の蓄積・伝授・移転

例えば、先輩からお客様の特徴と接し方を教えてもらう、資料作成のコツを教えてもらうなどテキストに残さず、会話だけで知識が共有されていくこと

・Externalization(表出化)

暗黙知から新たに形式知を得るプロセス

対話・思慮による概念・デザインの創造(暗黙知の形式知化)

自己の暗黙知の表出

暗黙知から形式知への置き換え翻訳

例えば、社員が個々で持っているノウハウをマニュアル化したり、業務フローとして可視化する。

この資料を使い、社内勉強会を開き知識を共有する。

・Combination(結合化)

形式知から新たに形式知を得るプロセス

形式知の組み合わせによる新たな知識の創造(情報活用)

新しい形式知の獲得と統合

形式知の伝達、普及、編集

例えば既に社内にマニュアルがあっても、変更点があり、社員が個々に修正しているとしたら、全社的には知識がまとまっている状況とは言えません。

体系的にまとめ、矛盾をなくし、新たな形式知として活用できるように整備します。

・Internalization(内面化)

形式知から新たに暗黙知を得るプロセス

形式知を実行・実践のレベルで伝達、新たな暗黙知として理解・学習

行動、実践を通じた形式知の体化

シミュレーションや実践による形式知の体化

例えば、整体の施術をしているお店で、再来店率80%のAさん。

Aさんの接客ノウハウを形式化し、全社員が実践のレベルで行えるよう勉強会などで伝達します。

実践を通じ、新たなノウハウ(暗黙知)が理解・学習されていきます。

これを再びSocialization(共同化)すると、4つプロセスがスパイラル化して組織の知識は活性化し、新たな経営戦略への活用も可能になります。

SECIプロセスをスパイラル化する工夫

SECIプロセスを継続的に行えるようスパイラル化するには、更に次のような工夫を行います。  

・Socialization(共同化)、Externalization(表出化)

暗黙知をまず表面化することが大事です。

日常の口頭指示(会話)を記録します。

これらは仕事の指示や、アドバイスに該当することが多いでしょう。

手軽に、すぐ活用でき、テキストとして記録が残るビジネスチャットを活用します。日常的に手軽に簡単に使えます。

これを暗黙知と意識し、1ヶ所に情報を整理保管して共有していきます。

・Combination(結合化)、Internalization(内面化)

既に業務フローや、マニュアルなど、形式知として存在しているものがあるでしょう。

もしそれが、紙ベースであれば、デジタル化する必要があります。

デジタル化するタイミングで内容のアップデートを行いましょう。

デジタル化した資料は、クラウドサービスなど組織内で情報が共有できるように整えましょう。

既にデジタル化されている場合は、データの管理方法やファイル名のつけ方等を統一化して、検索が行いやすいように工夫しましょう。

暗黙知と形式知は、お互いに変換を行い、作用させ合うことで知識の活用幅を広げることができます。

重要なものは、形式知として可視化しないと共有活用が行えません。

知識のアップデートを定期的に行えるように仕組化することも、ナレッジマネジメントのポイントです。

ナレッジマネジメントを継続させるナレッジマネジメントリーダー

知的創造プロセス(SECI)をスパイラル化できるように仕組み化しても、最終的には、これを実行管理するリーダー「ナレッジマネジメントリーダー」が必要です。

小さな会社であれば、経営理念の実現に向けて知識を活用するでしょう。

その経営理念を実現するために、どのような知識資産を得ていくのか、どのように活用するのか、常にPDCAが同時にサイクル化するでしょう。

これらを経営者がすべて行うのではなく、社員と共に実行していきます。

その時の役割分担の采配や、新たに行うべき取り組みなど、大枠の指揮はリーダーが導いていく必要があります。

経営理念の実現に向けて知識を創り、活性化させ、組織を率いていくことが、ナレッジリーダーの役割です。

ナレッジマネジメントを左右する場

ナレッジマネジメントを構成する基本的な成分は、SECI(知的創造プロセス)と知的資産の開発・活用・維持です。

この他に、ナレッジマネジメントを行う上で重要なのが「場」です。

野中郁次郎教授によると、「場(ba、place)とは、共有された文脈―あるいは知識創造や活用、知識資産記憶の基盤(プラットフォーム)になるような物理的・仮想的・心理的な場所を母体する関係性」と説明しています。

場とは、物理的な会議スペースや、ネット上のコミュニケーションスペースのことだけではありません。

文脈という、その場にいないとわからないような脈絡状況場面の次第、その場にいる人々の関係性も含まれます。

例えば、社内でノウハウを共有しようと働きかけをしても 

・意見を出す方法が示されていない

・意見をストックするスペースがない

・そもそも会社の中で意見が言える雰囲気ではない

などという状況であれば、ナレッジマネジメントは上手くいきません。

特に、「何を話しても受け入れてもらえる」「自分の意見は否定されない」という心理的に安心ができる場がないと、暗黙知を安心して出すことはできません。

ナレッジマネジメントが行いやすい「場」作りも忘れずにやりましょう。

ナレッジマネジメントの実際事例

経営者が会社にある様々な知識資産を、全社員が活用できるように、可視化し共有化できるようにするのがナレッジマネジメントです。

SECIプロセスで知識資産を共有することが出来ても、その後の取り組みによって会社の状況が変わります。

今回、私がナレッジマネジメントを行い、SECIプロセスを社内で運営できるとこまで支援した2社の事例をご紹介します。 

A社は建設の仕事、B社はWebの開発の仕事をしています。 

会社規模は共に創業5年目、社員数10人以下、年収1億円前後です。 

両社とも目的と取り組み方は同じです。

・目的:社員から各自が保有している仕事の手順や留意点などのノウハウを形式知化し、全社員で情報共有すること。

情報の整理の仕方は、仕事を段階的に整理し、教育の指導書と評価制度への活用までできるようにすること。

この目的に達するように、各社の形式知と暗黙知を可視化し、管理方法や情報更新をすることを計画し、弊社の01組織クラウドのような、暗黙知を形式知に変換するようなツールを活用し知識資産の共有が行えるようになったところまでは同じです。

ナレッジマネジメントをこの時点を終わりにしてしまうと、会社は何も変わりません。

弊社の伊藤が日々お話をしているように、「社長がいなくても回る組織」にするには、社員に知識資産を活用させることが重要なのです。

ナレッジマネジメントの成功か、失敗かの分かれ道は、形式知化した後の運用・リーダーシップ・場作りでした。

成功事例・失敗事例共に、この3つのポイントに絞ってお話をします。

ナレッジマネジメント 成功事例

成功事例は建設会社のA社です。

経営者の方が15年勤務した会社を退職して設立した、創業5年目の会社です。

仕事はエアコンの修理や設置、簡単なリフォームです。

社員は中途採用した7名、年収1億3,000万円の会社です。

この会社は創業間もないこと、社員は中途採用で、仕事の仕方は個人のノウハウで行い、共有化はされていませんでした。

このノウハウのバラつきにより、仕事の仕上がりに差が出ていました。

そこでナレッジマネジメントのSECIプロセスで知識資産を活用できるようにしました。

この取り組みをしていく中で、経営者は2人の社員が非常に丁寧な仕事をしていることに気がつきました。

そこで、この2人に形式知化したノウハウが定着できるまで「アドバイザー」という役割を与え、現場で作業する時、形式知化した行動と異なることがあった場合の軌道修正役にしました。

また、経営者とアドバイザーの3人は月に1回、現場の運営と形式知化した知識に改善点がないか、見直しを行いました。

このことをサイクル化し、知識資産の共有は会議、指導の場で積極的に行われました。

この会社は毎年社内で経営計画発表会を行うのですが、ノウハウの確認、新しく取り入れた仕事の手順や、廃止する手順を周知し、1年かけて変更点の定着と知識のアップデートを全社員で共有するようになりました。 

人材が定着しにくく、人材の確保が難しい会社ですが、現在社員数は14名、年商は3億5,000万円になっています。 

A社は社員が定着し、年収が高まったこと、現在もナレッジマネジメントを実施していることから成功例と言えるでしょう。

 成功の要因

・形式知としたものを実際に運営し、継続的に加筆修正し、知識の創造プロセス(SECI)を運営し続けたこと

・知識の創造プロセス(SECI)を運営するナレッジマネジメントリーダーが、明確に決まっていたこと

・ナレッジマネジメントリーダーが定期的に変わり、指導の循環を生んだこと

・ナレッジマネジメントリーダーと経営者が、定期的に意見交換や形式知の加筆修正を行い、知識のストックをする場があったこと

これらの要因が、ナレッジマネジメントを成功に導いたと言えます。

ナレッジマネジメント 失敗事例

失敗事例はWeb開発の会社のB社です。

経営者の方が5年勤務した会社を退職して設立した、創業5年目の会社です。

仕事はホームページの作成や、広告ページや通販サイトの作成などをしています。

社員は中途採用した6人、年収1億万円ほどの会社です。

この会社も創業間もないこと、社員は中途採用で、仕事の仕方は各自で行っていたので、仕事の仕上がりに差が出ていました。

特に制作時間にバラツキがあり、作業の効率性が悪いと経営者は感じていました。

もっと効率よく仕事を行い、1ヶ月で処理できる仕事の件数を増やしたいと思っていました。

そこで事業に関するノウハウの形式知化をして欲しい、とご依頼がありナレッジマネジメントのSECIプロセスで知識資産を活用できるようにしました。

この会社は私が支援を終えた後、知識の創造プロセス(SECI)を意識した取り組みは行われませんでした。

まず、ナレッジマネジメントリーダーがいませんでした。

それにより、仕事上で気がついた新しい手順や改善策を確認する作業が行われていませんでした。

社員が自由に知識のアップデートができるような環境も整っていませんでしたので、形式知化しただけで終わっていました。

定期的な会議も行われず、知識のアップデートも止まったままだそうです。

会社の状況は、現在は社員が常に入れ替わっているそうですが、社員数、年商に変化がないそうです。

B社は課題の状況が変わっていないことから失敗例と言えるでしょう。

失敗の要因

・形式知にはしたが、知識の創造プロセス(SECI)を実践しなかったこと。

・知識の創造プロセス(SECI)を運営するナレッジマネジメントリーダーがいなかったこと。

・指導の循環はなく、現状維持で終わったこと。

・意見交換や形式知をストックする場がなかったこと。

これらの要因によって、ナレッジマネジメントが失敗に終わったと言えます。

知識の創造プロセス(SECI)を行うのは、本当に手間と時間がかかります。

ですが、これをゴールにしてしまうと、会社は何も変わりません。

ナレッジマネジメントの真の目的は、理念経営を実現するために、知識の創造プロセス(SECI)を実施することです。

何のために行うのか、目的を見失わないようにしましょう。

まとめ

ビジネスの多様化、同種業態の増加、他社との差別化、顧客ニーズへの対応、生産性の向上、効率・迅速化の訴求など、「知識」を活用することがビジネスの必須条件となってきました。

この「知識」は、他社と共有しやすい形式知と社員一人ひとりの中にあり、他者が共有できない暗黙知があります。

この2種類の知識を、知識の創造プロセス(SECI)を活用して、社内全体で活用できるよう仕組み化することが大切です。

暗黙知を形式知に変えることは時間がかかり、とても大変です。

だからこそ、企業にとって価値ある知識となり、その知識を活用することで新たな事業の展開を考えることができたり、新サービスの創造や既存サービスのリニューアルなど経営理念実現に向けた事業運営に活用できます。

個人が保有している知識には、限りや偏りがあります。

多くの知識を社内に集め、共有アップデートできるように管理していくことが、ナレッジマネジメントの役割です。

ナレッジマネジメントに取り組むには

・ナレッジマネジメントに取り組む目的を明確にする

・知識の創造プロセス(SECI)を活用して、事業で必要な知識を共有化する

・形式知化した知識は実務で活用する

・活用することで気がついた知識は、常にアップデートする

・知識を共有するための場(ミーティングの機会、情報の提供場所、情報をストックする場所)を作っておく

・ナレッジマネジメントの目的、定着指導を行うリーダーを決める

これらの事が必要です。

経営者1人でできることではありませんので、社員を巻き込んで計画的に取り組んでいきましょう。

知識を蓄積する場として、01組織クラウドの機能を活用するのも、作業の軽減につながります。

是非、ご活用ください。

※参考資料

「知識経営のすすめ - ナレッジマネジメントとその時代」

著者:野中郁次郎/紺野登 2013年 ちくま新書