組織エンゲージメントとは
「engagement(エンゲージメント)」は直訳すると、約束・契約・婚約・雇用
という意味があります。
マーケティングで用いられるエンゲージメントはお客様と企業の商品・サービスとの結びつきであり、親密さ・共感性を示す指標です。
組織エンゲージメントは、組織と社員の間で、お互いに信頼関係で結びつき、親密さ・共感性があることを示します。
組織エンゲージメントを考える際、次のような取り組みの有無を確認します。
- 組織はどのような理念を持ち、実現に向けて事業計画や年度目標を掲げているのか。
組織と社員の間で、お互いに信頼関係で結びつき、親密さ・共感性を保つには、経営理念の作成と、それを実現する計画性が必要不可欠です。 - その理念を実現させるための心構えである「ありかた」や仕事の取り組み方は、社員に浸透しているのか。
経営理念が作成されていても、経営者の実現するための心構え「ありかた」も社員に示していないと、理念の浸透はしにくいです。 - その指導者である経営者は、言行一致した姿を示しているのか。
経営者自ら言行一致の行動を示すことが、社員へとの信頼関係の構築になります。
この信頼関係が作れなければ、組織内の全員が一丸となって事業に取り組む事が難しいでしょう。
経営理念を掲げ、実現に向けた事業計画が作成され、経営者の言行一致の行動によって、社員との信頼関係が構築されている。
多くの経営者が取り組んでいることが、組織エンゲージメントを高める取り組みです。
しかし、この様な組織は「理想」であり、現実は組織をまとめるのに苦慮している経営者が多いのです。
それは組織のあり方や、社員との関わり方に変化が生じているからです。
組織エンゲージメントが必要な背景
以前、別の記事でエンゲージメントを高める方法について、消費行動を事例に説明しました。
エンゲージメントは、企業を取り巻くさまざまな人たちの繋がりや約束を意味します。
その繋がりや約束をお客様が実感できることが消費行動に繋がります。
その時の現代の消費行動は「DECAX(デキャックス)」と言われるものです。
1.Discovery(発見)
2.Engage(関係)
3.Check(確認)
4.Action(行動)
5.eXperience(体験共有)
現代では物を購入する時、商品の価格や性能だけでなく、作り手の商品に対する思いや、商品に至るまでのプロセス(ストーリー)も重視します。
商品の価格や性能、そこに込めた思いやストーリーに、お客様は繋がりや共感を感じ商品を買います。
「DECAX」は消費行動ではありますが、実は組織エンゲージメントを説明する上でも共通点があるのです。
共通点は次の4つです。
・Engage(関係)
・Check(確認)
・Action(行動)
・eXperience(体験共有)
組織エンゲージメントが高まらない要因が、まさにこの4つの中に含まれているからです。
1.Engage(関係)の変化
社員が組織と関係を深めることです。いわゆるコミュニケーションを取り、お互いに情報交換をしながら関係性を作ります。
しかし働き方が変わり、テレワークなどが導入され、会社に行く機会が減少しています。更に時短勤務で仕事をする時間が短くなったことで、組織内のコミュニケーションが劇的に減少しています。
副業も推奨され1つの会社に長く働くというより、複数の会社で短く働き、自分の時間を充実させるという働き方も出てきています。
このような働き方は、人が1つの会社に属し、会社に愛着を感じることができにくくなります。
このような組織内の関係性の変化から、組織エンゲージメントを高める必要性が生まれています。
2.社員のCheck(確認)が厳しい
組織に属している社員は常に、自分と会社の関係性が本当に有益なのかを絶えず確認しています。
例えば、経営理念「お客様の美の追求に全力を尽くす」を掲げ、事業に取り組んでいたとします。
しかし経営者が在庫を減らすために古い美顔パックから使うように指示を出した時、
社員から「それだと肌荒れが出るのでは…」と言われたとします。
もし経営者が「肌あれはいつでも起きるから、うちのお店との関係とは気がつかないよ」という話をしたらどうでしょうか…
社員は一気に愛着心をなくします。
社員は経営者や管理職の言動に関して、常にcheckをしています。
経営理念は経営者が「本当の思い」として掲げ実践している事なのか…?
集客目的のセールストークではないのか…?
事業の取り組みに「嘘」はないのか…?
など、お客様以上に厳しい視点で、常に確認しています。
この事例は極端な話と感じられるかも知れませんが、社員は経営者や管理職の些細な言動から、矛盾点を敏感にキャッチします。
この厳しいcheckをクリアし、社員と信頼関係を構築するには、組織エンゲージメントが必要になります。
3.Action(行動)を維持する
組織エンゲージメントのAction(行動)は正に勤務態度に表れます。
モチベーションとも連動しているでしょう。
組織エンゲージメントが低いということは、社員が組織を信じていないということです。
経営者や管理職の言動が信じられなければ、これまで熱心に仕事に取り組んでいた人の作業速度が遅くなったり、作業ミスが増加します。
また、新たな仕事をいらしてもハードルの高い仕事やリスクの高い仕事は避けたり、責任が生じる仕事も引き受けなくなります。
場合によっては仕事を休む、会社を辞めるという行動も生じるでしょう。
組織エンゲージメントが下がると、社員の行動に変化が生じ、会社に対する損失が増えます。
社員の行動を安定した状態に維持するためにも、組織エンゲージメントが必要です。
4.eXperience(体験共有)の減少
組織エンゲージメントのEngage(関係)が希薄になることで、社員と組織が同じことを体験共有する機会が減ります。
これまで仕事終わりの社内交流会や、BBQなどや旅行など、家族ぐるみで仕事とは別に繋がりを作る機会も劇的に減ってきています。
同じ場所で、同じ成功体験や失敗体験などを共有することで繋がりや共感性が生まれ、組織エンゲージメントが高まるのですが、それができにくい時代が来ています。
組織エンゲージメントのeXperience(体験共有)を減らさないような取り組みが必要です。
組織エンゲージメントを高める方法
自分以外の人と共に仕事をしていくには、組織エンゲージメントが必要不可欠です。
しかし、働く環境が変わり、組織のあり方が変わってきており、以前のような組織内の関わり方では組織エンゲージメントは簡単には高まりません。
経営者は、改めて組織エンゲージメントを高めるような取り組みを求められています。
組織エンゲージメントを高めるには、次の6つの取り組みが必要です。
1.経営理念の作成
組織エンゲージメントの一番核になるものは経営理念です。
経営者の思いを理念に表し、その理念実現に向けた事業展開を示すことが、社員との繋がりを生み、組織に愛着を持たせる要素になります。
その理念に社員が共感し、愛着を抱きます。
小さな会社でも組織エンゲージメントが高い会社は、経営者の思いや仕事に対する姿勢を表す経営理念が作られています。
あなたの会社でも組織エンゲージメントを高めたいと考えるのであれば、まずは経営理念の作成から行いましょう。
2.経営理念の浸透・定着の取り組み
経営理念が作成されても、社員に浸透・定着しなければ組織エンゲージメントは高まりません。
経営理念を他人事と感じさせるのではなく、自分事として考えられるように伝えていきます。会社が目指すべき方向や、それを実現するための取り組みを行っていきます。
経営理念について経営者が一方的に説明するだけでは、理念の浸透・定着に時間がかかります。
時には社員が経営理念について説明をしたり、社員が担当している仕事が経営理念の実現について、どのように貢献しているのかを説明させます。
組織のあり方が変わり、決まった時間に社員全員が集まれない、テレワークや時短勤務など社員と直接接する機会が少なくなっている今だからこそ、意識的に社員とのコミュニケーションを取り、相互理解に努めることが大切です。
3.組織エンゲージメントのEngage(関係)
社員が一堂に集まり難い状況であれば、経営者は意図的に社員との繋がりや信頼関係を築く工夫をします。
一般的にはSNSを活用して意見交換をする場を作っている会社が多いと思いますが、組織エンゲージメントを高めるのであれば、意見交換をするツールとしてSNSは適しません。
SNSは短い言葉でやり取りされることが多く、本来伝えたい意図の半分は異なった意味合いで捉えられます。
これは、言葉の意味を理解する経験値の差が多様にあり、一文字一解釈とはならないからです。
例えば「今日はお客様の来店が多く疲れました」という文章が送られて来た場合、多くの人は「疲労を感じるほど仕事が忙しかった」と解釈するでしょう。
しかし、同じ状況で「もぉ、大変です。」という文書が送られてきた場合、「何かトラブルが起きたのか」「困っていることが起きたのか」「メールを送った人が大変なのか」「それ以外の人が大変なのか」とさまざまな解釈をします。
このさまざまな解釈が組織エンゲージメントを下げる要因にもなります。
組織エンゲージメントは関わる全員が繋がり合い信頼し合うことで、そのためには相手を理解することが欠かせません。
SNSだけの繋がりでなく、定期的なミーティングで社員と直接意見交換を行ったり、one on oneなどの個別面談を行うなどして、社員との関係づくりを工夫します。
4.組織エンゲージメントのCheck(確認)
社員との関係づくりをするときに合わせて行うことが確認です。
社員は常に、自分と会社の関係性が本当に有益なのかを、絶えず確認しています。
同時に経営者も社員がどのような思いを組織に対して抱いているのかを確認することが大事です。
確認は、お互いに話し合わないと、すり合わせができません。
話し合った時に、意識の違いがあれば、その場で訂正・修正をします。
このような関わりをすることも組織エンゲージメントを高める取り組みになります。
5.組織エンゲージメントのAction(行動)
経営者が示す組織エンゲージメントのAction(行動)は、理念実現に対する行動。
事業計画を実現させる行動です。
この行動が言行一致を社員に伝えることにもなります。
自ら掲げた事業計画と目標を達成するために行動する姿は、組織エンゲージメントを高める要素の一つです。
6.組織エンゲージメントのeXperience(体験共有)
組織エンゲージメントを高めるために、社員と意見交換を行ったり、意識の確認を行ったり、経営者自ら行動することをお勧めしてきました。
それらの取り組みは必ず全社員にも同様の活動を行わせ、体験の共有をしましょう。
社員が個別に取り組んだことをミーティングで説明をすることも体験の共有になります。
しかし、全く同じ体験を社員全員で取り組むのとでは、共有の度合いが大きく異なります。
例えば、同業他社の最近のトレンドをリサーチする際、特定の社員だけにリサーチをさせるのではなく、全社員でリサーチをするスケジュールを作ります。
その後、全員でリサーチの感想や気がついたことをシェアします。
同じ日時でなくても、同じ場所、同じシチュエーションを体験することで、社員の意識は一気に共感共有になっていきます。
今の時代に合った体験共有を工夫します。
共有の仕方は、会議室に集まらなくてもオンラインで行うこともできます。
文章で伝える場合は、LINEやTwitter、facebookなどのSNSではなく、社内日報など会社の定型文を活用しても良いでしょう。
社内日報の運用も多様化しています。用紙に記入するだけでなく、デジタル文書として作成しメールに添付して送るとか、01組織クラウドのようにクラウドの中にある日報機能を活用すると、より汎用性が良くなります。
体験の共有共感をするツールの活用は、自社の状況に応じて使いやす物を選ぶと良いでしょう。
組織エンゲージメントの効果を測る
組織エンゲージメントが高まるように取り組んだとしたら、組織内にはさまざまな変化が起きます。
その変化は次の3つの現象として現れ、サイクル化します。
1.業務効率の向上と増収
組織エンゲージメントが高まると、社内の動きが統一され、無駄な動きが減少します。
それに伴い業務効率が向上し、売上が上がる(利益が増える)という結果が表れます。
2.社員のモチベーションが高まる
組織エンゲージメントが高まると、社員の企業に対する愛着心や帰属意識が高まります。
一緒に働く仲間への信頼感も高まり、自分のことだけをするのではなく、お互いに助け合って仕事へと取り組む風土が生まれてきます。自分のしていることが仲間の役に立ち、困った時は仲間が助けてくれる。このような信頼感が仕事に対するやる気も生み出し、モチベーションを高める効果に繋がります。
3.離職の減少と業務スキルの向上
社員のモチベーションが高まれば、離職が減少します。これまで短期間で社員の入れ替えが起きていた会社は、社員の能力も一定水準で止まっていたでしょう。
しかし社員が長期間会社に定着することで、業務スキルは向上し、お客様の評価も高まり、売上向上にも繋がっていきます。
組織エンゲージメントが高まることは、組織力を向上させ、結果的に事業活動の好転に繋がります。
さまざまな書物では、組織エンゲージメントを数値化するためにアンケートを作成したり、統計分析をするようなものもありますが、小さな会社は社員の行動を結果として測れるようにすることが一番実務的で手間が少ない取り組みになります。
また業種業態によって、組織エンゲージメントが高まった際の結果の現れ方が違う場合もあります。
大事なことは経営者自身が、自社の組織エンゲージメントが高まったら、社内にどのような変化が見えてくるのか予め予測しておくことが大切です。
まとめ
社内の繋がり信頼関係を強化する組織エンゲージメントについて、お話をしてきました。
組織エンゲージメントは、組織と社員の間で、お互いに信頼関係で結びつき、親密さ・共感性があることを示します。
この結びつきは、一朝一夕では成しえません。
経営者の事業に対する思いである経営理念を示し、それを社員に浸透・定着する機会を作ることから始まります。
組織エンゲージメントが高まるまでには時間がかかるでしょう。
しかし一度組織エンゲージメントが高まれば、あなたは最強の組織、最強の仲間を得ることになります。
組織エンゲージメントは多様で何が正解ということもありませんが、組織エンゲージメントが高まることで、必ず仲間の行動変化を引き起こし、目に見える結果が表れてきます。
是非、変化を楽しみながら、あなたならでは組織エンゲージメント作りに取り組んでみましょう。