従業員エンゲージメントとは
「engagement(エンゲージメント)」は直訳すると、約束・契約・婚約・雇用
という意味があります。
マーケティングで用いられるエンゲージメントは、お客様と企業の商品・サービスとの結びつきであり、親密さ・共感性を示す指標です。
従業員エンゲージメントは、会社と従業員の間で、お互いに信頼関係で結びつき、親密さ・共感性があることを示します。
ただ、小さな会社の場合、従業員は会社との繋がりよりも経営者との繋がりを重視します。
私の知り合いにベンチャー企業の副社長Aさんがいらっしゃいます。
私とAさんがお会いしたのは10年ほど前で、当時のその会社は社員数50人前後で、Aさんは入社間もない一般社員でした。
Aさんとお会いした直後、その会社は社内紛争が起き、社長は他の取締役から辞任を求められました。社長は数名の社員と一緒に会社を辞め、その後、新たな会社を立ち上げました。Aさんは社長と共に会社を辞めた1人です。
新たな会社が設立され、Aさんが副社長になった時に、次のようなことを聞いてみました。
「会社を辞めてから、社長と一緒に新しい会社を設立しても、しばらくお給与はありませんでしたよね?
なぜ、そこまでのご苦労をされても、その会社にいらっしゃるんですか?」と…
Aさんは笑顔で「私は男ですが社長に惚れています。社長の叶えたい夢は私の夢でもあります。いつか社長と一緒に実現したいんです。そのために働くことは楽しいです。」
と話されていました。
「従業員エンゲージメント」という言葉を聞くたびに、このAさんのお話が思い出されます。
Aさんのような社員が、従業員エンゲージメントが高い社員と言えるからです。
Aさんと社長が新しく始めた会社は、数年前は数名の小さな会社でした。
その会社は、現在は数百名の従業員を抱える企業へと成長しました。
事業も発展・増収が続き、従業員の定着率もとても高い会社に変わりました。
その変化を生んだ要素の中に経営理念の浸透に伴う、従業員エンゲージメントの向上です。
社員が増えるたびに、社長だけでなく、Aさんや創業メンバーが中心となって、徹底的な経営理念の浸透を図ったそうです。
その甲斐もあり、この会社の従業員エンゲージメントは高水準を保っています。
このような事例からも、従業員エンゲージメントは、企業を強くし従業員と経営者・管理職との繋がりを強く大きくし、結果的に事業の拡大という結成果を生むのです。
この事例は、ほんの数名から始まった小さな会社の取り組みです。
従業員エンゲージメントは、あなたの会社でも取り組めることです。
従業員エンゲージメントの高め方
Aさんが所属している会社の従業員エンゲージメントが高い理由は、経営理念の浸透です。
これは、Aさんだけでなく、その会社の経営者自ら「会社の成長は経営理念の浸透にある」と話していました。
以前、別の記事でエンゲージメントを高める方法について、消費行動を事例に説明をしました。
エンゲージメントは、企業を取り巻くさまざまな人たちの繋がりや約束を意味します。
その繋がりや約束をお客様が実感できることが消費行動に繋がります。
その時、現代の消費行動は「DECAX(デキャックス)」と言われるものです。
- Discovery(発見)
- Engage(関係)
- Check(確認)
- Action(行動)
- eXperience(体験共有)
現代では物を購入する時、商品の価格や性能だけでなく、作り手の商品に対する思いや、商品に至るまでのプロセス(ストーリー)も重視します。
商品の価格や性能、そこに込めた思いやストーリーに、お客様は繋がりや共感を感じ商品を買います。
「DECAX」は消費行動ではありますが、実は従業員エンゲージメントを説明する上でも共通点があるのです。
「DECAX」の共通点を含め、従業員エンゲージメントを高めるには、次の4つの取り組みがあります。
1.経営理念の浸透
従業員エンゲージメントは、従業員と経営者との親密性・共感性・信頼による繋がりです。
経営者が掲げる経営の理念に親密性・共感性を抱きます。
しかし、経営理念が作成されても、従業員に浸透・定着しなければ、従業員エンゲージメントは高まりません。
特に、経営理念について経営者が一方的に説明するだけでは、理念の浸透・定着に時間がかかります。
従業員が経営理念について説明をしたり、従業員が担当している仕事が経営理念の実現についてどのように貢献しているのかを説明させることで、経営理念の浸透が早まります。
例えば、管理職や先輩従業員が部下に経営理念を説明する。このような取り組みを従業員の意思に委ね、偶発的に生じるのを待つのではなく、会社の取り組みとして計画します。
朝礼、定期的な勉強会、プレゼン大会など会社の定期的な行事として取り組めば、経営理念の理解は深まり、浸透する時間も短縮化します。
2.従業員エンゲージメントのEngage(関係)
従業員エンゲージメントを高めるには、経営者と従業員との信頼性・親密性・共感性の構築が重要です。加えて従業員と仕事との関係構築も重要な要素です。
従業員エンゲージメントを高めるには、2つの関係づくりがあります。
①人同士の関係づくり
仕事をする仲間同士で信頼関係を築き、親密性・共感性を作っていくには、関わり方の工夫が重要です。経営者と従業員とが定期的に交流し関わりを持つことが非常に重要です。
先ほど説明した経営理念の浸透に繋がる取り組みの事例として「朝礼、定期的な勉強会、プレゼン大会」を上げましたが、このような取り組みが関係構築には欠かせません。
しかし、人との関わるには「会うのが一番」と考える方がいます。
一方で人との関わり方は「SNSで十分」と考える方もいます。
このように、人の関わり方にも多様な考え方があり、相手を理解した上で、その人に応じた信頼関係を作っていくことが重要になります。
②人と仕事の関係づくり
従業員エンゲージメントを高める要素には、人と仕事の関係づくりも含まれます。
従業員が関わっている仕事が会社にとって、どのように重要な仕事なのか。
どのようなことで会社の役に立っているのか。
このようなことが実感できるか否かで、仕事の取り組み方や意欲に差が生じます。
従業員が仕事に対して意欲的に取り組めるよう、従業員と仕事の関わり方を考えることが必要です。
従業員エンゲージメントの関わりは人の関わり方や、人と仕事の関わり方の2つの視点で作り上げていきます。
このことを同時に行えるのが日報指導です。
日報は単に業務内容を記載させるだけでなく、不明点や課題などを記載させ、管理職や先輩従業員が添削して返すだけでも、お互いの状況や考え方を伝えることができ、共感性を高める効果もあります。
紙形式の日報ではなく、01組織クラウドにあるようなデジタル化され、共有化された日報であれば、特定の従業員だけでなく、全従業員の日報が閲覧でき、相互理解も高められます。
人の価値観が多様化し、信頼関係や親密性・共感性を作るにも様々な取り組みがあります。しかし日々の業務でお互いの理解を深め、親密性を高められる取り組みは無数にあります。
改めてあなたの会社の業務フローを見直し、従業員との関わり方も見直してみましょう。
3.従業員エンゲージメントのAction(行動)とCheck(確認)
従業員エンゲージメントが高まると、従業員の行動に変化が生じます。
例えば、
①これまで指示をしないと次の仕事をしなかった従業員が、指示をしなくても次の仕事を予測して自分で仕事を進めるようになった。
②いつも残業していた従業員が、残業をしなくても仕事が終わるようになった。
③自分の仕事だけで手いっぱいの従業員が、他の従業員の仕事を手伝うようになった。
などの、仕事の仕方や従業員同士の関わり方に変化が生じます。
この変化を評価として確認することも従業員エンゲージメントを高める要素です。
従業員の評価というと、評価の確認項目が数百あり、採点数値化するのに非常に時間と手間がかかるものが多いです。
しかし、小さな会社はそこまでの評価項目がなくても、経営理念の実現に向けた行動ができているかどうか、その行動は収益にどのように関わったのかという確認事項を整理するだけで、従業員の評価が行えます。
小さな会社は経営者が示す経営理念に沿った事業計画が作られて、その事業計画に沿った行動を従業員が行えば、必ず増収になるという結果が表れているのではないでしょうか。
もし、その結果が表れていないということは、従業員が予定している行動をしていないか、増収に繋がる行動をしていないかが考えられます。
このように従業員が行動した結果、どのような状況が表れるかを想定し、好ましい結果が出た場合は、従業員を褒める(昇給やベースアップ)ことを行い、好ましくない結果が生じた場合は、従業員の行動を確認し、修正をする必要があります。
このような、行動と結果を把握するにも、日報の活用は有効的です。
4. 従業員エンゲージメントのeXperience(体験共有)
最近は仕事に限らず成功体験をした人が少なく、さまざまなことに自信を持てないという方が増えています。
自信のなさは仕事に対する意欲の低下に繋がります。
新しい未知の仕事には積極的に取り組まず、ハードルの高い仕事や上手くいかない可能性があるリスクの強い仕事もやりたがりません。
このような従業員は、周囲からの応援や励ましなどを受けることで、仕事に対する意欲が変わっていきます。
これは従業員教育(OJT)にも繋がることです。
経験が少なく、仕事に対して自信の持てない部下や後輩の従業員に仕事を体験させます。
その体験した仕事を振り返らせて、内容を共有します。
体験のTry&Errorサイクルを作ることで、従業員同士のエンゲージメントが高まります。
従業員エンゲージメントのeXperience(体験共有)には、管理職の役割が非常に大きいのです。
以前、組織エンゲージメントについて記事を書きました。
組織エンゲージメントは経営者や管理職の人が組織をまとめるための働きかけ方が話のPointでした。
従業員エンゲージメントは経営者や管理職の働きかけではなく、従業員自身が仕事や社内の人と関わりたい、経営者や管理職、お客様から期待されたい、信頼を得たいという意欲を作ることがPointです。
あなたの会社の従業員は、あなたの会社のどのような点が社会に役に立っていると感じているでしょうか?
あなたの会社の従業員は、あなたの会社のどのような点に共感し、共に仕事をしているのでしょうか?
あなたは、日々どのようなメッセージで従業員に仕事に対する期待や貢献度を示しているのでしょうか?
もし、この問いに思い当たることが無なければ、まずは従業員を理解する。
このことが、あなたの会社の従業員エンゲージメントを高める取り組みになります。
従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
従業員エンゲージメントは、従業員自身が仕事や社内の人と関わりたい、経営者や管理職、お客様から期待されたい、信頼を得たいという意欲によって高まります。
そして、従業員エンゲージメントが高まることによって、従業員は必ず行動変異が生じます。
従業員エンゲージメントの同意語として従業員満足度(一般的には従業員満足度:Employee Satisfaction)という言葉があります。
従業員満足度は、会社の労働環境(仕事をする環境、人間関係、報酬、福利厚生)などに、どれほど満足しているかを調査するものです。
例えば仕事をする環境が暑いとか、寒いとか、雑然としているとか、制服着用の仕事なのに更衣室が少ないなど、働く環境の満足を調査します。
その満足度から分析される職場の課題点を把握し、改善していくことで従業員満足度を高めます。
しかし従業員の満足度が高まったからと言って、仕事の効率が良くなり、企業の業績アップに繋がる、従業員の離職が減少するとは言い切れません。
従業員満足は、あくまでも、職場を管理する側が課題を把握し、改善行動をするための情報収集であって、従業員自身の行動変容を促すことにはならないのです。
もし、あなたの会社で職場の環境を改善したいと考えるのであれば、従業員の満足度を調査するよりも、従業員自ら行動変異が生じる、従業員エンゲージメントを高める取り組みを考えていきましょう。
まとめ
従業員エンゲージメントの高い会社は、離職率が低下、作業効率の向上、売上や利益という企業にとっての良い結果をもたらすサイクルが生まれています。
この従業員エンゲージメントは経営者や管理職の関わり方によって、従業員自身の働く意欲や会社との関わり方に対する思いを高めることに繋がります。
それは単に経営者や管理職とコミュニケーションを取ることだけでなく、従業員自身が会社で行っている仕事の役割や、貢献度を感じることが重要になります。
仕事の役割や貢献度を従業員に理解させるには、まずあなたの会社の仕事について理解を深めさせる必要があります。
これは日々の教育にも関係することかも知れません。
従業員教育を効果的に行うには、従業員に教えたことを記録させると仕事の再現性が高まります。
一般的にはノートに仕事の内容を記録させますが、パソコンを活用しでてデジタルデータとして保管しておくと活用の幅が広がるでしょう。
01組織クライドにも仕事の用語を登録する機能や、仕事のマニュアルを作成する機能がついています。
このような機能を経営者や管理職が登録するよりも教える従業員に登録させると経営者や管理職の指導時間が軽減され、全従業員が閲覧できる情報として活用もできます。
教わったことが再現できないという状況も従業員エンゲージメントが高まらない要素です。
教わったことが簡単に確認でき、従業員自ら仕事が理解でき、作業が進められれば、従業員の会社の期待に応えたい、信頼を得たいという気持ちを支えることもできます。
従業員エンゲージメントを高めることは特別の取り組みではありません。