属人的な知識「暗黙知」を企業の資産として活用するナレッジマネジメント

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仕事で使われる2つの知識

仕事を行う時には、さまざまな知識を活用します。

その知識は大きく2つの種類に分けられます。

形式知

文字や数字・図などで表された知識です。

例えば、新聞、雑誌、インターネットなどで発信されている情報、社内で使われているワークフローやマニュアル、社内ルール、就業規則など、仕事をする上で活用されている共有知識です。

誰が見ても理解できるよう文字や数字・図で表され、活用しやすい知識で、顕在知識とも言われます。

暗黙知

個人が自身の経験から身につけた知識勘(感覚)、ノウハウ、無意識の動作、文字や数字・図やテキスト図などで表されていない知識です。

自分以外の人に説明することが難しく、他の人が活用しにくい表面化されていない知識で、潜在知識とも言われます。

例えば、ある行政書士事務所に事務スタッフとして入社したAさんがいました。

Aさんには仕事の内容によって用意する資料や、書類の書き方などは、資料や記入例を見せながら教えることができます。

この時、指導する社員もAさんも形式知を使って教え、学びができます。

しかし、この書類をミスなく素早く処理するには、Aさんは書類作成の経験を積む必要があります。

また指導した社員は、誰よりも早く必要書類が作れ、誤字脱字や記入の抜け漏れなどのミスがない資料が作れますが、そのノウハウをAさんに教えることはできません。

暗黙知は経験や勘によって蓄積される知識で、人に教えにくく共有しにくいものです。

これまでは暗黙知を活用する場合は、習得したのと同じ年数を教わる側が経験するしかありませんでした。

これでは、現在のビジネススピードに合わず、暗黙知の活用ができません。

企業の倍成長のカギは、暗黙知を形式知に変換し、会社の資産として蓄積する仕組みを作ることです。

暗黙知から形式知への変換方法

少し話題が逸れるかもしれませんが、日本のビジネスの歴史について少しお話をします。

日本のビジネスは家業承継が土台にあります。

第二次世界大戦前までは、生まれた家で行っていた仕事は子孫が継承することが「当然」という考えが根強かったです。

戦後の高度成長時代から現代では、仕事は劇的に変化し、仕事の種類も働き方も多様になりました。

しかしなぜか仕事の教え方は、「家業承継」時代から続く口頭説明で行われていることが圧倒的に多いのです。

昔のように家族に家の仕事を覚えさせるには「口で説明をして手伝わせて覚えさせる」という方法が取られていました。

24時間、365日を、寝食を共にしているのであれば、このような教え方でも問題はなかったでしょう。

更に仕事は手作業が中心ですから、ある程度見れば理解できることが多かったでしょう。

しかし、現代の仕事の中で見て覚えられる仕事は、どれだけあるのでしょうか?

口頭の説明で理解できるような簡単な仕事は、どれだけあるのでしょうか?

この時点で仕事の内容と知識の蓄積の仕方にギャップがあることがおわかりだと思います。

現代の日本の仕事で、話しただけ、見ただけで覚えられるような仕事は非常に少ないのです。

また、暗黙知を習得した時代と、教えるタイミングの時代とでは職場の環境そのものが異なるので、口頭説明だけでは意味が通じないことが多々あります。

更に、どんなに素晴らしい指導を行っても、その内容や口頭説明のみだと、大事なノウハウがその瞬間に消え、徐々に再現できなくなります。

大事なノウハウである暗黙知は形式化し、誰でも活用できるような知識資産に変えて次世代に残す工夫が必要です。

暗黙知から形式知に変換するには、次の3つの方法があります。

文書化

文字として知識を残します。

例えば、日常の口頭指示(仕事の指示や、アドバイス)をメモします。

書類の記入例や、会議の目次など重要となるものは記録して残します。

図式化

文字の説明だけで伝わり難いことは、イラストや相関図、設計図など視覚的な要素を取り入れて残します。

業務フローや作業マニュアルなどで使われています。

デジタル化

既に業務フローや、マニュアルなど、形式知として存在しているものがあるでしょう。

もしそれが、紙ベースであれば、デジタル化する必要があります。

デジタル化するタイミングで内容のアップデートを行うとよいでしょう。

文面のアップデートだけでなく写真、動画、音声を活用することも考えましょう。

デジタル化は情報の加筆修正・整理・共有が行いやすいです。

01組織クラウドも暗黙知を形式知に変える仕組みの1つです。

暗黙知を形式知に変えるには、単に「見やすくする」ということではなく、共有することや会社の知的資産として管理していくことも想定して形式知に変えていきましょう。 

知識の活用ナレッジマネジメント

会社や社員が持つ知識(暗黙知・形式知)を「ナレッジ」といいます。

個人々々によって捉え方が異なる知識・情報を個人だけに保有させておくのではなく、全社員の共通資産として集め、全員で有効的に使えるようにすることを「ナレッジマネジメント」と言います。

ナレッジマネジメント(knowledge management)は、1990年に一橋大学大学院の野中郁次郎教授の「知識創造の経営」という考え方から始まったと言われています。

野中教授は長年、日本企業の経営について研究を行い、企業が保持している情報・知識と、個人が持っているノウハウや経験などの知的資産を共有して、創造的な仕事につなげる知識創造を理論化されました。

野中教授はナレッジマネジメントを知的創造プロセス(SECIモデル)という、4つのプロセスで説明しています。

4つのプロセスの頭文字からSECIモデルとも言われ、SECIモデルがスパイラル状に繰り返すことで、戦略的なナレッジマネジメントが行えると述べています。 

SECIモデル

Socialization(共同化)

暗黙知から新たに暗黙知を得るプロセス

身体・五感を駆使、直接体験を通じた暗黙知の共有、創出

例えば、先輩からお客様の特徴と接し方や資料作成のコツを教えてもらう際に、テキストに残さず、会話だけで知識が共有されること。

Externalization(表出化)

暗黙知から新たに形式知を得るプロセス

対話・思慮による概念・デザインの創造(暗黙知の形式知化)

例えば、社員が個々で持っているノウハウをマニュアルにしたり、業務フローとして可視化すること。

この資料を使い社内勉強会を開き、知識を共有すること。

Combination(結合化)

形式知から新たに形式知を得るプロセス

形式知の組み合わせによる新たな知識の創造(情報活用)

新しい形式知の獲得と統合、形式知の伝達、普及、編集

例えば既に社内にマニュアルがあっても、変更点があり、社員が個々に修正していたら、全社的には知識がまとまっている状況とは言えません。

体系的にまとめ矛盾をなくし、新たな形式知として活用できるように整備すること。

Internalization(内面化)

形式知から新たに暗黙知を得るプロセス

形式知を実行・実践のレベルで伝達、新たな暗黙知として理解・学習

行動、実践を通じた形式知の体化、シミュレーションや実践による形式知の体化

例えば、行政書士事務所で書類作成が速く、どのような書類であっても誤字脱字・記入漏れのない資料を作成するBさんがいた場合、Bさんの書類作成ノウハウを形式化します。

その形式化されたノウハウを全社員が実践のレベルで行えるよう勉強会などで伝達します。

実践を通じ新たなノウハウ(暗黙知)が理解・学習され、全社員が同様の作業が行えるようになること。

Internalization(内面化)から再びSocialization(共同化)して、4つプロセスがスパイラル化すると組織の知識は活性化し、新たな経営戦略への活用が可能になります。

暗黙知と形式知は、お互いに変換を行い作用させ合うことで、知識の活用幅を広げることができます。

重要なのは形式知として可視化しないと共有活用が行えないことです。

知識のアップデートも定期的に行えるように仕組み化することもナレッジマネジメントのポイントです。 

暗黙知・形式知の変換を促す「場」作り

暗黙知から形式知に変化し、ナレッジマネジメントを行うには「場」が重要になります。

野中郁次郎教授によると、「場(ba、place)とは、共有された文脈―あるいは知識創造や活用、知識資産記憶の基盤(プラットフォーム)になるような物理的・仮想的・心理的な場所を母体する関係性」と説明しています。

野中郁次郎教授は、SECIモデルには4つの「場」があると提唱します。

Originating Ba(創発する場)

Socialization(共同化)で使う場です。

暗黙知から新たに暗黙知を得るのに必要な場です。

Dialoguing Ba(対話する場)

Externalization(表出化)で使う場です。

対話によって暗黙知から新たに形式知を得るのに必要な場です。

Systemizing Ba(システム場)

Combination(結合化)で使う場です。

形式知の組み合わせによる新たな知識の創造(情報活用)の場です。

Exercising Ba(実践する場)

Internalization(内面化)で使う場です。

形式知を実行・実践のレベルで伝達、新たな暗黙知として理解・学習させる場です。

「場」とは、物理的な会議スペースやネット上のコミュニケーションスペースのことだけではありません。

文脈という、その場にいないとわからないような脈絡・状況・場面の次第など、その場にいる人々の関係性も含まれます。

この「場」がないと、暗黙知を形式知に変えたり、新たな形式知を実践して新たな暗黙知に変えることができません。

暗黙知・形式知の変換を促し、ナレッジマネジメントを行うには「場」作りが重要になります。

暗黙知の活用を左右するナレッジマネジメントリーダー

個人の知識を全社員の共通資産として集め、有効活用できるよう、SECIモデルを用いたナレッジマネジメントを行っても、一時的な取り組みで終わっては意味がありません。

知識は常に流動的で変化していきます。

ナレッジマネジメントの仕組みを作ったのであれば、今後どのような知識資産を得ていくのか、どのように活用するのか、継続的な活動が必要になります。

また、暗黙知や形式知を相互変換するにも、社員の自主性だけに任せても上手くいかない場合があります。

継続的に知識資源を構築管理し、社内のナレッジマネジメントを活性化させるには活動の中心となるリーダーが必要です。

ナレッジマネジメントリーダーは、経営者だけが行うものではありません。

社員の中からリーダーを決め経営者と共に、社内の知識資産の構築・管理に取り組んでいきます。

まとめ

仕事で使う知識が2種類あり、他者と共有しやすい形式知と、他者と共有できない暗黙知があります。

暗黙知は、個人の属する知識です。

どんなに素晴らしい能力やノウハウがあっても、一個人にしか使えないのであれば、会社の増収には繋がりません。

属人的に取得されている暗黙知を社内全体で活用できるように、ナレッジ(知識)をマネジメント(管理)していくことが大切です。

特に暗黙知を形式知に変える工夫が必要です。

暗黙知を形式知に変える方法は、文書化・図式化・デジタル化の3つの方法がありました。

ビジネスを取り巻く環境は激変しています。

暗黙知を形式知に変えるのであれば、加筆修正が行いやすく、社内共有がしやすいデジタル化がお勧めです。

ただ、知識は暗黙知から形式知に変わるだけではありません。

知識の創造プロセス(SECIプロセス)がスパイラル化すると組織の知識は活性化し、新たな経営戦略への活用も可能になります。

また、知識を共有するための場(ミーティングの機会、情報の提供場所、情報をストックする場所)を作っておくことも大切です。

この場を作り、ナレッジマネジメントを継続的に維持・運用するにはリーダーを決めて取り組みます。

これら全ては経営者1人でできることではありません。

全社的な取り組みとして、社員を巻き込んでPDCAを作成して行っていきましょう。

01組織クラウドでは暗黙知を形式知に変換し、ナレッジマネジメントを支援する機能もあります。

ナレッジのデジタル化を行う際は、是非お試し下さい。

※参考資料

「知識経営のすすめ - ナレッジマネジメントとその時代」

著者:野中郁次郎/紺野登 2013年 ちくま新書