オン・ボーディングとは?
近年、社員育成などの用語として「オン・ボーディング(on-boarding)」という言葉が用いられています。
「オン・ボーディング(on-boarding)」とは、「on-board:船や飛行機に乗っている」という意味から派生した言葉です。
これは、船や飛行機に新しく乗り込んできた乗客や乗員に必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのことを示しています。
近年、社員の職場定着が問題視され、会社に入社した新人に対して上司を含め職場全体で新人を受け入れる体制を整え、職場に慣れ職場の定着を目指した継続的育成支援プログラムを表す言葉として、「オン・ボーディング(on-boarding)」が使われ始めました。
会社に慣れてもらう取り組み
新人(新卒入社・中途入社)に会社に慣れてもらう方法は色々あります。
代表的な取り組みとして2つの制度をご紹介します。
1.メンター制度(Brother・Sister制度ともいう)
新人(新卒入社・途中入社)に対して先輩社員が仕事を含む様々な課題を改善するように指導する制度です。
先輩社員(教える側)を指導者を意味するメンターと呼び、新人(教わる側)をメンティーと呼び、立ち位置が分かるような名称を使って指導をします。
男性同士・女性同士年齢が近い同士で指導をする場合、企業によってはBrother・Sister制度という言い方もします。
いずれも、新人の育成と定着を目指した取り組みで、日常的に先輩社員と関わることで、様々な悩みや不安が話やくすなり、早期に課題発見と改善が行え、離職防止に繋がります。
ただし、メンターとメンティの相性が悪いと、育成が上手く機能しない場合もあります。
2.ジョブローテーション
社員の能力を開発する教育法です。
30年ほど前は、今行っている仕事で「役に立たない」と思われたら、会社の采配で部署を異動させることがありました。
この時は、単純に上司の好みや思惑で人の異動が行われていました。
近年は、人の能力は関わる仕事によって成長できることが様々な理論で明らかにされ、社員の能力開発を目的に教育の一環として部署異動をさせる会社が増えてきました。
ジョブローテーションは思いつきで行うことではなく、経営計画に基づき社員をどのように成長させるか人材育成のPDCAを作成して実施します。
社員にとっては全く経験したことのない仕事で、出来るわけないと思い込んでいたことが実は適性があったという発見に繋がります。
ある仕事で能力が発揮できなくても、別の仕事で能力が発揮できると分かれば、会社を辞めずに仕事を継続できるので、社員教育だけでなく職場の様々なルールや人間関係を理解させ会社に馴染ませ、離職予防の役割も果たせます。
このような取り組みは、会社に慣れてもらうという意味ではオン・ボーディング(on-boarding)の一つと考えられます。
しかし、メンター制度やBrother・Sister制度は1対1の関係性であったり、ジョブローテーションは部署や関わる仕事のチーム内での関わりになることが多く、会社全体から見たオン・ボーディング(on-boarding)としては、取り組みの弱さがあります。
また、メンター制度やBrother・Sister制度、ジョブローテーションは対面的な支援の仕方でした。
テレワークなどの新たな働き方では、このような取り組みで職場に馴染ませることは難しいでしょう。
あなたの会社の状況に応じた、新たなオン・ボーディング(on-boarding)の仕組みを考える必要があります。
オン・ボーディング(on-boarding)を使って仕事に慣れさせ即戦力を高める方法
これまでのオン・ボーディング(on-boarding)は、既存の社員が職場に慣れてもらうために、メンター制度やBrother・Sister制度、ジョブローテーションを計画してきました。
しかし働き方が変わり、入社から6か月経過しても、新人は会社に出勤しなかったり、時差出勤でメンターやBrother・Sisterになかなか会えない、会ってもパソコン越しで、なかなかコミュニケーションが取れないという状況も出てきます。
そこで発想をメンターやBrother・Sisterが働きかけて職場に馴染ませるような取り組みをするのではなく、新人を動かして新人自ら職場に慣れるような取り組みをさせていきます。
オン・ボーディング(on-boarding)を使って仕事に慣れさせ即戦力を高めるには次のような方法があります。
1.新人に社内報を作らせる
新人を職場に慣れさせるには、社内のことを知ることが一番です。
出社できるのであれば、社内の人を紹介して歩いたり、仕事の説明ができますが、出社しない状況だと難しいですね。
そこで、1日でも早く社内に馴染ませ、会社のことを知ってもらうには、新人に社内の情報誌を作ってもらうことが一番です。
例えば
・会社の変遷をまとめる
・経営理念の解説をする
・会社のルールを解説する
・仕事の特徴をまとめる
・部内の人にインタビューをして記事を作る
など、新人自身が行動して社内の情報を集める役割を与えて取り組ませます。
新人に最優先で知ってもらいたいこと、理解させたいことをpickupして、社内報の記事として書かせます。
この書いた内容から、新人の会社に対する理解や馴染み度合いを測ることもできます。
更にこの活動は出社してもテレワークでも、どちらでも出来ることが利点です。
いつ新人が入社してきても同じ取り組みができるように、予め社内報の記事のテーマは決めて置くといいでしょう。
例えば社員のインタビューテーマの場合
・1月:我が家のお雑煮自慢
・2月:私が鬼のように怒る瞬間
・3月:暖かくなると出かけたくなる場所
など
既存社員には過去投稿した話の2度遣いを禁止し、マンネリ化防止の工夫をします。
「社内報」という切り口で新人が自ら会社に馴染めるよう、既存社員と交流するきっかけを作ります。
2.心理的安全の確保
新人が既存社員に話しかけるには、勇気がいります。
話しかけても拒絶されたり罰せられたりすることはなく、安心して自分の思う事ことが言える「心理的安全」を確保しておく必要があります。
新人が自ら主体的に行動するには、心理的安全性の確保は欠かせません。
新人に対することだけでなく、日頃の仕事の状況から、全社員が自分の考えを自由に発言し、そのことに対して非難や拒絶をせず、対話で意見交換ができる職場環境を整えておくことが大事です。
3.チャレンジの機会を作る
職場の理解が深まることで、社員の仕事に対する意欲(モチベーション)が高まります。
その意欲が高まった時に仕事に関われないと、仕事に対する意欲は、あっという間に低下します。
例えば
・3ヶ月後にはお客様に社内報を使って、会社の良さをPRする仕事をさせる
・新商品に関する告知記事を書かせる
・お客様に提出する書類の下書きを担当する
など、新人が感じた会社の良さをお客様にお知らせする機会を作ったり、自分の得た知識を発揮する仕事を与えます。
この期間が増え仕事の経験が高まれば、即戦力として会社の仕事に関われます。
新人を即戦力として使いたいのであれば、
・会社に関する正しい判断基準の教育(知識・技術のinput)
・学んだことを仕事で発揮する(知識・技術のoutput)
この2つをバランスよく作ります。
このinput・outputの機会としてジョブローテーションは有効な活動です。
ジョブローテーションは大手企業や、ある程度の社員数や部門数がある会社でないとできないと思われていますが、小さな会社の仕事そのものがジョブローテーションです。
例えば、整骨院の場合
・受付(接客スキル)
・施術(整体の専門知識と技術の発揮)
・次回予約とイベントの告知(広報活動)
・お会計(数値計算)
と、大手企業であれば4部門に分けられるような仕事を1人で行っています。
しかしも日々ローテーションしていますよね。
小さい会社だから、取り組むことも多岐にわたり人数も少ないので兼務で仕事します。
しかし、新人はこの様な複数の能力を一度に発揮することは出来ないのです。
よって、ジョブローテーションのように、今月は受付業務だけに関わり完璧に業務を覚える。
来月は施術の内容に特化して専門的に覚えるなどと仕事を分けて取り組ませれば、仕事に慣れる頻度が増え、結果覚えが早くなります。
仕事に慣れないうちは、まず会社全体の仕事を把握させます。
次に自分が日々取り組む仕事の重要性を理解させます。
このように徐々に仕事を割り当て、仕事に関わらせて馴染むように計画をしておきましょう。
4.活動を振り返る仕組み
職場に慣れるには、様々なルールを覚えたり仕事の段取りを覚えることが必要です。
私が新人時代は、自分で教えられたことをノートに記録して振り返るようにしていました。
しかし今は、仕事を取り巻く環境は劇的に変わり、1つ何かを覚えてもすぐに変化します。
また、社内で統一的に覚えることを、個別に誤って覚えるのはリスクです。
例えば01組織クラウドのように社内の誰でも仕事に関する情報が閲覧できるようにしておくと良いです。
自分の覚えることを予め確認するだけでなく、自分の覚えたことをメモ的に記録できるような仕組みをつくっておくと良いです。
特にお勧めは社内ルールや会社で使う用語です。
既存の社員の方は日常的に仕事で使っている言葉は専門用語という自覚がありません。
例えば私は仕事柄「キャリア」という言葉を日常的に使います。
私が「キャリア」という言葉を使う意味は「何かを一人でできるように経験を積んでいく機会」という意味で使います。
しかし、一般的に「キャリア」という言葉は「就職させること」「仕事を選択させること」という意味で捉えられます。
同じ「キャリア」という言葉でも、意味合いが異なると、指示の意図が伝わらず部下は思うような行動をしません。
このような状況では、せっかく仕事のチャンスを与えても、効果的に力が発揮されません。
仕事で使っている言葉は必ずしも全員が同じ意味で使うとは限らないことから、社内の用語集を作っておくことも仕事に慣れてもらうには重要な要素です。
社内ルールも同様です。
会社の中で過ごす上で、積極的に取り組んで欲しいOKルールと、仕事上しないで欲しいNGルールも明確にしておきましょう。
用語も社内ルールも仕事をする上で判断をしたり、決断する材料になります。
社内に即馴染み、1日も早く戦力として仕事に取り組んで欲しいと思うのであれば、用語や社内ルールが理解できていないと、戦力として力を発揮することができません。
会社に馴染み、仕事に対する意欲が高まった時に、学びを発揮させ即戦力としてのキャリアを積ませていきます。
その為には、活動内容の読み返し振り返りが行えるような仕組みをつくっておくことが欠かせません。
オン・ボーディング(on-boarding)に取り組むメリット
新人を社内に慣れさせるオン・ボーディング(on-boarding)に取り組むと次のようなメリットが得られます。
1.短期間で職場に馴染む
これまで述べてきたように、新人が自ら率先して社内に馴染むようなオン・ボーディング(on-boarding)を行わせたのであれば、従来の「待ち」姿勢の人と比較して、より早く職場に馴染ませることができます。
職場に馴染む時間が早ければ、それだけ仕事に関わる時間が早まります。
即戦力として新人の育成を目指すのであれば、新人が主体的に活動できるオン・ボーディング(on-boarding)を実施していきましょう。
2.短時間で即戦力として育成できる
即戦力の育成を時短するには、どれだけ早い時期に業務に関わらせ、新人自身の経験を増やすかがPointです。
しかし、社内ルールが理解できず、職場に馴染めてない人に仕事を依頼するのは、管理職としては不安材料でしかありません。
新人が主体的に活動できるオン・ボーディング(on-boarding)に取り組めば、職場に馴染む期間が短縮化され、業務に関わるタイミングも早めることができます。
職場に慣れる時間の速さが、仕事に関わる時間の速さに繋がり、仕事の回数を増やす状況作ります。
これもオン・ボーディング(on-boarding)に取り組んだメリットになります。
3.社内コミュニケーションの向上
オン・ボーディング(on-boarding)は、全社的に新人の定着を支援する取り組みです。
そこで、事前に社内で意識合わせを行っておく必要があります。
指導の仕方1一つにしても、指摘することと褒めることのガイドラインは考えておくと良いですね。
これが社内ルールのOKルール・NGルールに反映されていると更に良いでしょう。
また、社内で使う用語の整理をして、言葉の捉え方に差異が生じないようにしておくことも大切です。
このように、新人が職場に馴染むための受入れ環境を整えることは、結果として職場全体の環境整備に繋がります。
既存社員の方でも、用語意味が理解できていない人や会社の仕組みが分からずに仕事をしている人がいるかもしれません。
そのような人も一緒に、仕事に関する意識合わせが行え、社内コミュニケーションの向上に繋がります。
まとめ
オン・ボーディング(on-boarding)は、会社に入社した新人に対して上司を含め職場全体で新人を受け入れる体制を整え、職場に慣れさせ定着を目指した継続的育成支援プログラムです。
ただ、従来のように既存の社員が主導し、新人が受け身的なオン・ボーディング(on-boarding)では、思うような職場定着ができません。
働き方が変わり従来のように社員同士が会ってコミュニケーションをとりながら職場に慣れさせる方法だけでなく、社員同士が会えなくてもオン・ボーディング(on-boarding)が行える仕組みを考えることが必要になります。
社員が会えなくても次のようなオン・ボーディング(on-boarding)は取り組むことができます。
・新人が自主的に動く取り組みを事前に考えておく
・心理的完全性が保たれた環境で新人が活動できるよう社内環境を整えておく
・新人が会社に慣れる工夫として社内用語やルールをいつでも確認できるようにしておく
・新人のモチベーションが高まっている時はチャレンジできる仕事を与える
・できるだけ短期間で会社に慣れさせ早めに仕事を任せるようにする
社員同士が会う・会わないという状況に捉われず、会社の働き方がどのように変わっても経営者が目指すことは新しく入った人にできるだけ社内に慣れて即戦力として力を発揮してもらうことでしょう。
その為に、どのような取り組みが必要なのか、あなたの仕事をベースに考えておきましょう。
社員が会えなくてもオン・ボーディング(on-boarding)に取り組むには01組織クラウドのような全社員が情報の共有や意見交換がタイムリーで行える仕組みがあると便利です。
あなたの会社でも、情報の共有や意見交換が行いやすい仕組みも考えてみましょう。