小さな会社の人事制度構築のステップ

組織/仕組みづくり
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人事制度導入の目的

 人事制度とは、社員に役職の等級を付けたり、昇給する上での仕事ぶりの評価をまとめたルールのことです。
人事制度を企業が導入する目的は次の2つと言われています。

経営戦略

企業が求める理念や数値目標を達成するために、どのような人材が必要であるのか。
その人材にどのような仕事を担わせることで、目標が達成できるのか。
理想の実現に向けて戦略的に考える要素として人事制度を活用します。

人材の育成定着

採用した社員を企業が求める知識や技術について、仕事をしながら身に付けさせます。
同じようなタイミングで、知識や技術を習得させる機会を作っても人によって、習得率が異なります。
企業としても教えたことをしっかり学び身に付ける社員や、教えていない事でも、自ら学びスキルアップをする社員と、そうでない社員と評価に差を付けたいと考えるでしょう。

社員にしても自ら自主的に活動していることを、上司が評価してくれればより精力的に仕事に取り組みますが、評価してくれないのであれば、意欲が削がれます。

採用した人材が企業の求める知識や技術を習得しているのか、仕事を意欲的に取り組み、その人材の意欲を削ぐことなく企業に定着させるためにも、人事制度は必要です。
小さな会社では「人材の育成定着」を目的に取り組むことを考える経営者が多いのではないでしょうか?

人事制度の必要性は感じているが、どのように取り組んで行ったら良いのか、悩まれますよね。

今回は人事制度を設計していくステップについてご紹介します。

人事制度導入のステップ

人事制度は「社員を評価する」「役職を与える」という結果に至るための道筋を作っていきます。
この道筋がブレると制度と実態が合わず、社員から不満が生じる制度が出来てしまします。

仮に社員1名の小さな会社でも、人事制度を作る場合は次のステップで取り組んでいきましょう。

Step1.人事制度プロジェクトを作る

小さな会社では、人事制度は経営者が1人で作成することが多いです。
経営者1人の会社であればそれでもいいのですが、仮に社員が1名でもいるのであれば、社員と一緒に作りましょう。

小さな会社の人事制度は経営者の私的感情で作られ、社員は公平な評価は行われていないと思われがちです。
しかし、人事制度作りに社員が参加することで「経営者が作った制度」ではなく「自分たちが考えた制度」と当事者の意識が生まれます。

加えて期限を定め効率的に制度確立が行えるように役割分担をして進めることもプロジェクト化のメリットです。

Step2.人事制度導入の目的を決める

まずは、何を目指して人事評価を導入するのか、目的を明確にしましょう。
先程のように、経営戦略を実現するための人材を活用していくのか、社内の人材育成と定着を目指すのかでも評価基準が変わります。
経営課題や今後の経営計画を考えながら人事制度を導入することで、何を成し遂げたいのか目的を明確にしましょう。

Step3.人事制度の方針(ルール)を決める

人事制度を行う目的が決まりましたら、人事制度の方針を決めます。
経営理念の実現や経営戦略の実行者は社員です。
その社員にどのような働きを求めるのか。
どれくらいの成果を出したことで、どのような処遇(役職・昇給)を与えるのか。
社員にどのような行動や結果を求めるのか。
どのような行動や結果は望まないのか。
企業の目指す社風(風土)について整理します。

企業は社員に働く機会を与えるだけでなく、社員へ成長する機会も与えています。
その機会を使って成長していく社員と、変化の無い社員とは処遇が変わりますね。

この処遇を経営者の思い付き、その場しのぎで決めてしまうと社員が増えた時、矛盾が生じてしまします。

仮に社員がいなくても、何も仕事を知らない社員が入社してから、時系列に沿い仕事を段階的に覚えて社員がどのように成長するのか、求める姿や仕事に対する姿勢を書き出しルール化します。
これが人事制度の方針書になります。

もし、社員を参加させたプロジェクトとして取り組む場合は、この方針書に社員の意見も取り入れます。
ただ、社員の意見を取り入れる際は、都合の良い自己主張なのか、本当に必要なことなのかは、熟考した上で決めましょう。

Step4.人事制度の内容を考える

人事制度は次の3つを柱に設計していきます。

等級制度

役職表・能力基準表という名称で呼ばれることもあります。
自社にどのような能力を持った人が、どのような役職を用意するのかを考えます。
役職の名称も、部長・課長、マネージャー・リーダーなど業界や会社ごとに名称が違います。
どのような役職名は、どのような能力を持つ人なのかを明確に決めます。

評価制度

社員に対して「何をどのように評価するか」を定めた制度です。
社員が等級で求められているスキルを有しているのか、業務を行う際に適切なスキルを習得しているかどうかを測ります。

評価の仕方には次のような内容があります。

年功評価
入社年数や経験年数、年齢などを基準に評価する方法です。

能力評価
仕事で必要な資格や業務スキル、個人の能力を基準に評価する方法です。

コンピテンシー評価
企業の模範的優秀な社員と同じ行動をしているかどうかという判断基準で評価する方法です。

360度評価
1人の社員に対して、上司や部下、同僚など仕事の仕方や人との関わり方を多面な角度で評価する方法です。

目標管理制度
目標に対して「達成できたかどうか」を評価する方法です。
ジョブ型の働き方をしている企業で取り入れられている評価法です。

この他に次のような評価方法もあります。

職務評価
社内の職務内容を比較し、その大きさを相対的に測定する方法です。
大手企業で用いられることがありますが、小さな会社だと兼務する業務が多く評価がつけにくい方法でしょう。

役割評価
企業内で「どのような役割を担っているか」を基準に評価する方法です。
職務評価同様、小さな会社だと兼務する役割が多く評価がつけにくい方法でしょう。

報酬制度
等級が決まり評価基準が明確になると、どのような報酬を与えるのかを考えます。
報酬は評価された結果や等級に応じて、給与や賞与の金額を決めます。

Step5.人事制度導入シミュレーション

もし、この人事制度が導入されたら、社員の給与(人件費)がどのように変化するのかシミュレーションします。
社員の昇給が生じれば、保険料の企業負担額も変化します。
今1名の社員が次年度2名に増えた際の最終的な人件費はいくらになるかも想定しておきます。
その支出に対して、社員の稼働と得られる利益のバランスに矛盾が生じないかシミュレーションします。

人事制度が経営戦略と関連するのはこのような点からです。
社員へ支払う給与はコストではなく投資です。
その投資をどのように回収するかは経営戦略次第で変わります。

経験値の低い社員を雇用した場合、人事制度によって昇給する時期は遅くなりますが、収益が得られる時期も当然遅いでしょう。

人事制度を実施した際の収支バランスをシミュレーションし、経営体制と併せて検証します。

Step6.評価者の意識合わせ

人事制度の方針や評価内容が決まりましたら、評価者を決め意識合わせをします。

例えば、

・一般社員はリーダーが評価をする

・リーダーはマネージャーが評価をする

・マネージャーは経営者が評価をする

というように、対象者によって評価者が異なるのであれば、それぞれの評価基準の捉え方、考え方の意識合わせが必要です。

小さな会社であれば、兼務となり評価者も少ないかも知れません。
その際は経営者との意識合わせが重要です。

方針書に沿って、評価基準の考え方を統一させておきましょう。

Step7.人事制度のPDCA開始

数人の社員がいる会社で、人事制度を取り入れるのであれば、運営開始前に社員に対して制度の概要や評価方法について説明を行います。
この導入が人事制度の「はじまり」になります。
プロジェクト化し社員と共に作成しても実際業務を行いながら評価をすると、微調整を要する部分が必ず出てきます。
また、社員が増え業務が増えると評価内容もまた変わってきます。
人事制度は一度作ったら終わりではなく、企業の成長と共に日々変わっていくものです。

これまで人事制度があって運用をしていた場合は、新たな運用に移行するにもTry&Errorの繰り返しが必要です。

ただこのTry&Errorが社員の自己主張的なものなのか、企業をより成長させ社員のモチベーション向上や職場定着を目指すこととして欠かせないことなのかは、熟考する必要があります。

個人的には、人事制度が導入されたら、新しく期が変わる前(例えば創業3期目の11か月目)に、今期の振り返りしながら、次期の目標とそれに伴う人事制度の見直しを行う事をお勧めしています。

この時見直しする評価内容は業務変更に伴ったものの検討です。

例えば、

・手作業で行っていたことをパソコンなどのIT化になった

・店舗受付で行っていた業務がオンライン受付に変更になった

などです。

この様に業務が変わることで評価のポイントが変わりますので、それを全社員で見直します。

見直す際の基準は、人事制度の実施目的や方針書に書かれた基準です。
自社の経営理念や経営戦略が変わるようなところは変更の対象にはなりません。

人事制度の目的を果たし定着するまでのPDCAを毎年実施していき、より良い制度にしてきましょう。

人事制度作成の留意事項

今回ご紹介した人事制度の作り方は社員を巻き込み、どのような制度をどのような判断で行っていくのかを全てオープンにした評価制度です。
この評価基準をオープンにすることで社員の仕事に対する姿勢や取り組みが前向きになり、業務の活性化に繋がっていきます。

その反面、社員が増えてきて同様の判断基準だけでは優劣が付きにくい。
社内でも極秘に進める仕事が生じ、その担当者だけは特別に評価したいと思う事も起きるかもしれません。
企業の業務内容の変化によって全ての評価項目を社員に開示できなくなることも起こりえます。

このように評価内容を管理職だけで定め、公にしない評価を「人事考課」といいます。
しかし、人事評価をオープンに運営してきた会社が突然シークレットの評価項目を持ち出して社員評価を行ってしまうと社員から不信や不満の声が生じてしまいます。

もし、新たな評価基準を付け加えるとか、新たな評価項目を付ける場合も、社員と一緒にプロジェクトを作り、全社員が納得する方法でリニューアルしていくことをお勧めします。

少しでも経営者の独裁的な要素が含まれると、その人事制度の信用度は一瞬で失われてしまいます。
この様なことが生じないようにするためにも、人事制度の導入の目的、方針書の整備、社員と共に作成するというポイントは忘れないようにしましょう。 

まとめ

人事制度は経営者1人で考えるよりは、社員を巻き込んで作成することをお勧めします。
理由として、人事制度の実施者が社員だからです。
実施する側の視点が含まれない人事制度は、実施後上手く機能しません。

実施する社員が納得し、自ら取り入れたいと思うような制度を作っていきましょう。
その時の土台になるものは経営理念と経営戦略です。

場当たり的な制度作成ではなく、実施に向けた7つのStepに沿って、計画的に実施をしていきましょう。

人事制度は作って終わりではなく、企業の成長、業務内容の変更によって変わっていきます。
人事制度のPDCAサイクルを作り、定期的なCheck・Actionを行っていきます。

その際、01組織クライドのような全社員がいつでも見やすく修正が行いやすような方法で運用していくことをお勧めします。

経営者の私的感情やその場しのぎの人事制度ではなく、経営理念の実現と経営戦略に沿って社員の成長と自社の成長が図れるような人事制度作りに取り組んでみましょう。