人を育てる仕組みの全体像

社員研修/教育
社員研修/教育 組織/仕組みづくり

人を育てること

私は長年農業に従事する方々に人材育成に関する話をしてきました。
その際たとえ話として使うのは「人を育てることは作物を育てることと同じ」です。

「作物」と言っても、お米、野菜、果物など多種多様です。
例えば、お米は水田でないと育たず、野菜は畑でないと育ちません。
野菜も品種によって手入れの仕方、土の作り方が違います。
つまり、育てる種の特徴に応じて、手入れの仕方と土壌(土の性質)が合わなければ作物は身を付けることができないのです。

これは、人も同じです。
人も個性があり、その個性によって育ち方が多種多様です。
会社が育成環境を整えていても、そもそもその環境に適さない特徴の人材であれば、社内で力を発揮することはできません。

農業を行っている人は、自分の農園の育成環境を考慮して、育つ野菜を選びます。
水田しか育成環境が無い農園は米を育て、他の野菜は育てません。

小さな会社は、人材を募集しても人が集まらないので、募集してきた人は比較的簡単に採用します。
自社の社風や求める能力を考慮せず人を採用することは、水田しかない環境で野菜を育てるのと同じくらい、育つ見込みのない取り組みをしています。
水田はお米しか育ちません。
まずは、あなたの会社で人材を育てるための環境分析をしましょう。

自社の育成環境を分析する

作物は育つ環境と育てる種の特徴が一致しないと実がなりません。

人も同じで育つ環境と育てる人の特徴が業務内容に合っているかどうかで育成の結果がかわります。

そこでまずは自社がどのような育成環境にあるかを分析することが大事です。

例えば某社労士事務所の場合

会社の特徴

・経営者プラス社員3人で稼働している

・電話での問い合わせや来客が多い

・経営者も社員も多くの仕事を抱えている

・お客様に提出する書類が多く、パソコン作業や印刷作業に追われている

この会社の育成環境

・細かい仕事の指示が出来ない

・仕事の指示書やマニュアルは整備されていない

・決まった作業ルーティンはない

・見て覚えられる仕事は新人が見ながら覚えて欲しい

・経営者や先輩社員とコミュニケーションを取りながら仕事を覚える

小さな会社は多少差があるものの、同様の特徴や育成環境なのではないでしょうか?

このような育成環境から、成長できる人材を考えると

・ビジネスの基本スキル(電話応対・来客対応などの経験)がある

・状況把握力がある

・周囲とコミュニケーションが取れる

・臨機応変に対応する力がある

という内容を思い浮かべる方が多いでしょう。
この様な人材を種と考えて採用することは難しいですね。

しかし、このような人は「種から育てる人」ではなく、「ある程度育っている人」ではないでしょうか?

ここで考えなければならない事は、「教えなくても覚えられるようにする」という育成環境を作ることです。 

指導の仕方

小さな会社で人を育てる時、一般的な指導法を用いると、どうしても育成の壁にぶつかります。
育成の壁は「時間がないから教えられない」ということです。

小さな会社で人を育成するには「教え方」を工夫する必要があります。

Teaching(ティーチング)指導法

一般的に行われている指導法です。
指導者の知っていること(知識、技術)を一度に多くの方へ効率よく伝達する方法です。
但し、指導者が主導権を持ち、指導者のペースで情報の伝達が行われるので、相手(教わる側)の理解度は重視しない方法です。

このような指導法は先ほどのような仕事の環境では実施し難いですね。

そこで、小さな会社は指導の仕方を工夫します。
お勧めの指導法は「Communication(コミュニケーション)指導法」です。 

Communication(コミュニケーション)指導法

言語,身ぶり,画像などの物質的記号を媒介手段とし、相互理解を生む指導法。
語源はラテン語で「分かち合う」。

コミュニケーションは会話で行われていることを想定する方が多いのです。
コミュニケーションの目的はお互いに分かり合う事、「相互理解」です。

相互理解をする3つの要素

・情報発信
考えていることを外に出し相手に知らせる
発信は言葉だけでなく、写真・イラスト・動画なども含まれる

・情報受信
相手の情報を受け止め、自分の考えとすり合わせ理解を深める

ただコミュニケーションで情報を受け止めて終わることはありません。
受け止めたことに気が付いたこと、感じたことを相手に問いかけることもあります。
その際は、情報発信を使って自分の考えを発信します。

・相手の理解
情報を発信したり受信する際、自分主体ではなく相手を主体に考えます。

今、この説明をしても理解できるか?

なぜこのような問いかけをするのか?

前回話したことは、どこまで理解が出来ているか?

などの相手のことを考えながら、情報を発信したり受信して情報を整理します。
これを指導法として用います。

この指導法の最大のメリットは相手に応じた指導ができることです。

Teaching(ティーチング)指導法は、指導者が主体ですので指導者が教える時間が無ければ実施し難い指導法ですが、Communication(コミュニケーション)指導法はお互いの状況を把握しながら指導をすることができます。

例えば、教わる側がこれからする仕事について

どこまで理解しているのか?

知っていることは何か?

分からないことは何か?

双方で確認した上で、取り組ませる仕事が決められます。

教わる側が知っている内容であれば、指導することなく任せることができますね。
知らない事であれば、依頼する仕事の内容を話し、手順を調べさせたり、書類の書き方を過去の資料を基にテスト的に書かせるという取り組みをして、相手の力量を測ると良いですね。

その上で、一人で調べながら取り組む仕事、自己学習として事前に知識を蓄積する仕事などを指示することも可能になります。

何もかもゼロから指導をすることを考えるのではなく、指導の範囲を考えることも、人を育てる上で重要な要素です。

自社の指導環境に適した指導法を考えることも、人を育てる上で重要な要素になります。

人を育てる仕組みの全体像

自社の育成の環境と指導方法を決めたのであれば、次のようなStepに沿って社内の育成に取り組んでいきます。

Step1:人を育てる目的を決める

自社で人を育てるには目的(求める姿・習得するスキル)を明らかにします。

人の育てる目的として「経営理念の実現」を掲げた場合はより内容を深掘りし、経営理念を実現する社員とはどのような能力を発揮している社員なのか具体的に示します。

例えば某社会保険事務所の経営理念を実現する社員像

・柔軟性・創造性・ロジカルシンキング・課題解決力などがある人

・社会保険労務の知識・給与体制に関する知識・労務に関する法律知識がある人

・社内の整理整頓など環境整備の意識が高い人

・守秘義務の意識が高い人

・コミュニケーション力がある人

など。

このように「〇〇ができる人」「〇〇のような人」という具体的な人物像を表すことで、育成の目的(何のために仕事に取り組むのか)・目標(目指す姿)を明示できます。

Step2:自社の業務を洗い出す

人を育てるには、本人に仕事を取り組ませないと成長が出来ません。

しかし、仕事の内容によっては、今すぐできる仕事と何年か仕事を経験しないとできない仕事が存在します。

例えば受付業務という仕事は「来店のお客様の名前を聞いて予約確認をする」という仕事は今日入社した人でもができます。

しかし「予約内容によって提供サービスの説明をする」という仕事は、ある程度自社の商品内容が理解でき、お客様のニーズによって提供サービスを変えるという、数カ月以上の業務経験がないと任せられない仕事になります。

このように、簡単にできる仕事と経験が必要になる仕事が混在していては育成が上手くいきません。

そこで、自社の業務を細分化し、難易度表示(レベル表示)をしておきます。

例えば:整骨院 受付業務(Level1:簡単~Level5:難しい)

1.ご挨拶をしてお客様を迎える(Level1)

2.お客様のお名前、ご予約内容を聞く(Level1)

3.予約ありのお客様は担当者に繋ぐ(Level1)

4.予約なしのお客様には申し込み用紙の内容説明を記入とお願いする(Level2)

5.施術内容によって保険適用に関する説明をする(Level4)

6.担当者にお客様情報を伝え、サービス内容を決める(Level4)

など。

このように仕事を細分化し、仕事の難易度を明らかにします。

Step3:仕事の難易度に応じた仕事の覚え方を整理する

仕事を教えるのは、必ずしも指導者が傍について話すだけとは限りません。

現在は、口頭指導だけでなくマニュアルなどの活字データを確認したり、写真でイメージを持たせたり、動画で手順を教えたりと、様々なツールを使った指導法があります。

特に難易度が低い仕事に関しては、マニュアル・動画などのツールを使った方が教えやすいことが多いです。

理由はレベルが低いことは基本的な業務内容であることが多く、全く業界のことを知らない人は1度では覚えきれないことが多いのです。
このようなことを口頭で説明をし、相手にメモを取らせるよりも、マニュアルや動画などで自社の基本作業として記録し、何度も読み返し確認ができる状況にしておく方が覚えやすいです。

反面、Levelが高い仕事は経験が伴うものです。
マニュアルや動画を見ても実践が伴わないと高まらない能力です。
しかし、全く接客経験が無い人に、お客様対応させるのは企業としてリスクが伴います。

そこで、社内トレーニングとしてロールプレイングや事例対応などのお客様経験が高まるような取り組みを考えます。

自社の仕事を教えるのは基本社内業務から派生します。
このように自社の仕事を通して仕事を教えることをOJT(On the Job Training)といいます。
実際にお客様と接しながら、仕事を教えることをOJTと勘違いされている方がいますが、OJTは仕事の練習です。

実務をする前にトレーニングさせることですので、お間違えの無いように…

OJTでは学べない内容は、OFF-JT(OFF the Job Training)として、社外に学びに行くことも考えると良いでしょう。

ただ、小さな会社はOJTだけでも社員のスキルアップが行えます。

まずは、仕事を中心に仕事の覚え方を整理しましょう。

Step4:仕事の覚え方を決める

 仕事の難易度(Level)によって覚え方が異なります。

どのように仕事を覚えていくのか、覚え方を決めていきます。

例えば

・Level1の仕事
マニュアルや動画を見て覚える側の社員が自主的に取り組む

・Level2・3の仕事
マニュアルや動画を見て覚える側の社員が自主的に取り組む
その後、先輩社員が質問をして内容の整合性を確認する

・Level4・5の仕事
先輩を相手にロールプレイングを行う
お客様対応力を高める

というように、新人自ら覚えるような仕組みを作ることができます。

仕事の覚え方は、難易度によって異なります。
仕事の難易度を分けることで教え方(覚え方)も様々な方法が考えられます。

指導を行う前には業務の分解が必要不可欠です。

Step5:育成計画を作成する

育成の目的・目標が決まり、育成の方法が決まりましたら「いつまでに」「どれくらいの頻度で」「どのような状況になるか」ということで時間軸に沿って計画をします。

企業内で人が育たない最大の要因は、場当たり的で計画性がない育て方をしているからです。

人を育てる育成計画は、経営計画と併せて設計します。

例えば、繁忙期に人を採用した所で、忙しくて新人に関わる時間がありません。
それこそ、自主学習のナビゲーションすらできない可能性があります。

しかし、閑散期に人を採用した場合、通常よりも時間の余裕ができますね。
この閑散期を使って人を育て、繁忙期に対応できるよう育成計画を考えます。

人を育てることは計画できます。

自社の業務状況が把握できる経営計画書を参考にしながら、育成計画を作りましょう。

Step6:覚えたことの評価をする

育成の最大のポイントは評価です。

育成計画書を参考に、育成の目的(何のために仕事に取り組むのか)・目標(目指す姿)に対して「教えたことが理解できているか?」「教えた通りの行動をしているのか?」を測ります。

小さな会社は膨大なチェックシートを使った複雑な人事評価がなくても、この育成計画を社員の結果だけでも評価を行う事ができます。

社員も自分の取り組みが評価されたことで、次のLevelの仕事を目指して仕事に対する意欲を示します。

人を育てる要素に評価は欠かせません。
忘れずに評価を行いましょう。

Step7:育成内容の見直し

社員に対して育成の評価を行ったのであれば、育成の見直しをします。

これは、毎年行う事をお勧めしています。

理由は産業の変化による業務の変化が生じるからです。
例えば店舗受付しかしていない業務が、ネット受付が始まったのであれば、新たな業務手順が発生しますね。

それに伴い、どのような方法で仕事を教えるのか?
どの様な目標を設定するのか?

経営者・管理職の方々で育てる目標と育てる期間、方法の妥当性を見直します。
仕事に求められる能力と社員が現在発揮している能力のギャップを把握し、仕事を通してその差を埋めていきます。
しかし、仕事には難易度がありますので、誰でもすぐに求める仕事ができとは限りません。

難易度が書き出され、段階的に仕事を覚える仕組みになっているのか、毎年チェックをすることをお勧めします。
見直しによって目標・実施期間・育成の方法が変更になった場合は、その変更について社員に通達します。

Step8:経営計画と共に新たな育成PDCAサイクルを作る

Step7まで、各社の新しい期を迎える前月まで(例えば5期11か月目)までに終わらせます。

新しい期が始まる経営計画と共に、新しい期の人材育成の目標・期間・育成方法を発表します。
その上で、各社員に自分の成長目標を決めてもらいます。
この成長目標は各業務に関連するので、仕事のタスクと連動させた学びの目標が出来ます。
経営計画だけでなく、人を育てることもPDCAを作成し、毎年そのサイクルが回るように実施していきます。

まとめ

人を育てる仕組みは、経営計画を考えることと同じです。

育てる目的と目標を決め、それに至る指導法を考え、実施計画書を作成してPDCAを回していきます。

それをその場しのぎで行わないように、マニュアルなど育成する方法や指導法を記録して残します。

仕事の基本となること、何度となく確認が伴うような仕事は必ずマニュアル化をします。
これにより、教える時間が圧倒的に削減できます。

また、マニュアルだけでなく、動画や社内トレーニングなど仕事の難易度に応じた、指導法を考えます。

01組織クラウドでは、このような育成計画や、マニュアル学習ツールを全て網羅した機能があります。

まだ、ご利用でない方は、是非01組織クライドの各機能をご利用いただき、人を育てる仕組み作りにお取り組み下さい。